大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 平成10年(行ウ)4号 判決 2000年5月25日

原告

甲野太郎

外六名

被告

石川嘉延

外三名

右被告ら訴訟代理人弁護士

牧田静二

右訴訟復代理人弁護士

祖父江史和

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、静岡県に対し、連帯して金四〇五〇万円及びこれに対する平成九年九月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、静岡県島田市の住民である原告らが、被告らが社団法人静岡県ゴルフ場協会(以下「ゴルフ場協会」という。)に対して松林の松くい虫防除事業費として補助金を交付したのは違法であるとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号に基づき、被告らに対し、静岡県に代位して、損害賠償請求している事案である(なお、原告らは、ゴルフ場協会が静岡県知事に対して補助金の請求を行った平成九年九月一六日(甲二)の翌日を遅延損害金の起算日としているものと解される。)。

一  前提となる事実(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  当事者

(一) 原告らは、静岡県島田市の住民である。

(二) 被告らは、平成九年当時、次の職にあった者であり、後記2の補助金交付決定権限を有していた者である。

(1) 被告石川嘉延 静岡県知事

(2) 同吉岡徹郎 静岡県環境部長

(3) 同望月公夫 静岡県自然保護課長

(4) 同原田安裕 静岡県副出納長兼出納局長

2  ゴルフ場協会に対する補助金の交付

(一) 静岡県においては、特殊林保護事業費補助金交付要綱(甲五。以下「本件要綱」という。)及び特殊林保護事業実施要領(甲六。以下「本件要領」という。)が作成されていたところ、その概要は次のとおりである。

(本件要綱の概要)

第一  趣旨

知事は、特殊林の保護を図るため、特殊林保護事業を実施するゴルフ場協会に対し、予算の範囲内において、補助金を交付するものとし、その交付に関しては、静岡県補助金等交付規則(昭和三一年静岡県規則第四七号)及びこの要綱の定めるところによる。

第二  定義

この要綱において「特殊林」とは、県民の保健休養の場として利用され、自然景観及び環境の保全上必要な林で、森林法(昭和二六年法律第二四九号)の適用を受けないおおむね二〇ヘクタール以上のものをいう。

第三  補助の対象及び補助率

(1)  特殊林保護事業に要する経費のうち、空中散布、地上散布、立木駆除及び被害予測調査に必要な委託料、薬剤費、資材購入費、機械損料、使用料及び労務費

(2)  補助率(額)

(1)に掲げる経費の二分の一以内とし、別に定める額を限度とする。

(本件要領の概要)

第一  主旨

本件要綱に基づく、特殊林保護事業の実施については、本件要綱及び静岡県補助金等交付規則(昭和三一年静岡県規則第四七号)によるほかこの要領の定めるところによるものとする。

第二  対象事業等

特殊林保護事業の対象とする事業内容は、次のとおりとする。

(1)  事業の内容

ア  特殊林において森林病害虫等防除法(昭和二五年法律第五三号)に基づく防除事業(以下「県営防除事業」という。)と関連を持ち、関係者が共同して実施する松くい虫防除事業とする。

イ  防除事業は、空中散布、地上散布、立木駆除及び被害予測調査とする。

(2)  対象区域

ア  空中散布にあっては、一団の面積がおおむね二〇ヘクタール以上まとまって存在する特殊林

イ  地上散布にあっては、面積がおおむね五ヘクタール以上存在する特殊林

ウ  立木駆除にあっては被害材積がおおむね一〇立方メートル以上存在する特殊林

(3)  対象事業者

この要領に基づく保護事業の対象は、特殊林の松くい虫防除を共同して行うゴルフ場協会とする。

(4)  対象事業費

特殊林保護事業に要する経費(委託(請負)防除に関わる経費を含む)

(二) 静岡県議会は、平成九年二月議会において、ゴルフ場協会が実施する平成九年度の特殊林保護事業に対する補助金の予算を四〇五〇万円と決議した(弁論の全趣旨)。

(三) ゴルフ場協会は、静岡県知事に対し、平成九年五月一日付けで、右事業に要する費用九六九六万〇二五九円のうち、四〇五〇万円を補助金として交付されたいとの申請を行い(甲二〇)、これを受けて、被告らは、ゴルフ場協会に対し、同月一六日付けで、静岡県補助金等交付規則、本件要綱及び本件要領を遵守することを条件として、四〇五〇万円の補助金を交付する決定をした(甲一)。

(四) ゴルフ場協会は、同月二〇日から同年八月二八日までの間に九八〇三万四六四七円の費用をかけで右事業を実施し、静岡県知事に対し、同年九月一六日付けで四〇五〇万円の補助金を請求し、これを受けて、被告らは、ゴルフ場協会に対し、右補助金を交付した(甲二、二一、弁論の全趣旨)。

3 監査請求

原告らは、平成九年一二月二五日、静岡県監査委員に対し、ゴルフ場協会に対する補助金(以下「本件補助金」という。)の交付は違法であるとして、被告らが静岡県に四〇五〇万円を損害賠償するよう求める監査請求を行ったが、同監査委員は、平成一〇年一月三〇日、これを却下した。

二 争点

1 本件補助金の交付は、法二三二条の二の「公益上必要がある場合」の要件をみたすか。

2 本件補助金の交付は、地方財政法四条一項の「その目的を達成するための必要且つ最少限度」の要件をみたすか。

三 争点に対する当事者の主張の要旨

1 争点1について

(原告らの主張)

(一) 法二三二条の二は、「普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄付又は補助をすることができる」と規定するところ、ここで「公益上必要がある場合」とは、補助金交付の公益性の程度、弊害の有無、その他の事情を総合して判断されるべきである。また、営利企業に対する補助金の交付は、公益のために採算制を犠牲にしているなどの特別の事情がある場合のほかは認められないというべきである。

(二) 本件補助金の交付について

(1)  本件補助金は、形式的には公益法人であるゴルフ場協会に交付されたものであるが、実質的には営利企業である各ゴルフ場に交付されたものである。したがって、公益のために採算制を犠牲にしているなどの特別の事情がある場合のほかは補助金の交付は許されないというべきであるが、本件においてそのような事情は認められない。

(2)  また、本件補助金は、ゴルフ場の松林の松枯れ防止を目的として交付されたものであるが、ゴルフ場の松林は、各ゴルフ場の営業にとって必要なものにすぎず、本来各ゴルフ場が自己の費用で管理すべきものであるから、本件補助金は、もっぱら各ゴルフ場の利益にしかならないものである。また、ゴルフ場は、ゴルフを嗜む者だけが利用する場所であって、県民一般に広く利用されている場所ではないから、ゴルフ場の松林の松枯れ防止が住民の大多数の利益につながるともいえない。

(3)  かえって、本件補助金の交付には次のような弊害がある。

本件補助金の目的とされているゴルフ場の松枯れ防止事業は、松枯れの原因であるとされるマツノザイセンチュウを運ぶとされているマツノマダラカミキリ(いわゆる松くい虫)等を防除するため、農薬スミパインを空中散布または地上散布する方法によってなされている。そして、スミパインは、マツノマダラカミキリが成虫になって外に出てくる期間に幅があることから、散布した殺虫剤の効力を長く保たせるため、農産物に対して使用される場合よりも約一〇〇倍の高い濃度で使用されている。

ところで、スミパインの空中散布及び地上散布は、地域住民及び地域環境に有害な影響をもたらしている。実際、スミパインの散布後には、地域住民から、頭痛、吐き気、腹痛、のどの痛み、目の充血、発疹、下痢等、様々な症状が訴えられており、現に米国では、スミパインと同じと認識してよいフェニトロチオンの使用が制限され、また、カナダでも、スミパインと同じと認識してよいスミチオンの散布範囲、散布回数、散布量等が制限されるに至っている。さらに、環境庁によれば、スミパインと組成が類似しているマラチオンが「内分泌撹乱作用を有すると疑われる化学物質」とされている。

ところが、静岡県においては、こうした地域住民や地域環境に有害な影響をもたらすスミパインが特殊林保護事業として散布され、しかも、右事業では、スミパインの空中散布が年三回以上もなされており、これは、空中散布はマツノマダラカミキリの成虫発生直前または発生初期及び発生最盛期直前の二回とする国の定めた運用基準(甲二三)に違反するものである(なお、ゴルフ場協会は、静岡県の指導の下、航空防除実施基準(乙三)を定めているが、これには空中散布の回数等、必要な事項が規定されていない。)。

本件補助金の交付は、こうしたスミパインによる弊害を助長するものである。

(4)  さらに、わが国でゴルフ場の松枯れ対策費用に補助金を交付しているのは静岡県だけである。また、現在の静岡県の危機的な財政事情に照らせば、本件補助金を交付するような余裕はないはずである。

(5)  以上のような事情を総合すれば、本件補助金の交付は、「公益上必要がある場合」の要件をみたしていないというべきである。

(被告らの主張)

(一) 松林は、重要な森林資源であり、木材等林産物の供給をはじめ、防風、飛砂防止、土砂崩壊の防止等の国土の保全・形成等の上で大きな役割を果たしているところ、わが国では、松枯れの原因であるマツノザイセンチュウを運ぶとされているマツノマダラカミキリ(松くい虫)等を防除するため、昭和二五年に森林病害虫等防除法が制定され、昭和五二年に松くい虫防除特別措置法(五年の時限立法)が施行された。そして、松くい虫防除特別措置法は、その後、繰り返し延長され、平成九年に期限が到来した後は、同法の特別伐採駆除等の規定が森林病害虫等防除法の規定に取り込まれる形で森林病害虫等防除法が改正された。

また、平成九年四月一日には、林野庁が松くい虫被害対策事業実施要領(乙六)を制定した。

(二) 静岡県では、森林病害虫等防除法に基づき、昭和四〇年から地上散布、昭和四九年から空中散布により、松枯れの被害の拡大防止を図ってきたが、昭和五二年に松くい虫の徹底的な防除を意図して松くい虫防除特別措置法が施行されたことを受けて、昭和五三年、松くい虫を広域的に防除するため、特殊林保護事業として要綱を定め、右事業を実施する民法三四条の社団法人であるゴルフ場協会に対して予算の範囲内で補助金を交付することにした。

ところで、ゴルフ場の松林を含む森林は、土地利用に関する法規等により、自然環境の保全及び防災上、もともと存在していた森林を残したものであり、地域の自然景観に寄与しているものである。また、ゴルフ場には優れた自然景観を保持している自然公園に近接するものが多いため、ゴルフ場の森林は、自然公園と一体となった自然景観を形成している。さらに、ゴルフ場の森林の多くは、森林計画の区分で生活環境保全機能及び水源涵養機能が高いとされている森林の周辺に位置し、それらの森林と同等の機能を果たしていると考えられ、環境の保全上重要な森林であるといえる。また、ゴルフ場は、東海地震等の大規模災害が発生したとき、地域住民の避難場所として重要な施設として期待されており、ゴルフ場の森林は防災上も必要な森林であるといえる。さらに、ゴルフ場は、今日一般に広く利用され、県民の保健休養の場として利用されている。

(三) 以上のような事情を総合すれば、ゴルフ場協会に対する本件補助金の交付は「公益上必要がある場合」の要件をみたしているというべきである。

2 争点2について

(原告らの主張)

空中散布の大規模実施制度化のために昭和五二年に制定された松くい虫防除特別措置法は、松枯れの原因がマツノマダラカミキリにあるとする見解を前提とするものであるが、このような見解に対しては、当初から問題性が指摘されていた。最近の新聞報道では、松枯れの原因は大気汚染にあるとの見解が指摘されており、静岡県議会においても、同様の見解が静岡県側からなされている。実際、五年の時限立法であった松くい虫防除特別措置法が、五年間では松枯れ被害を終息させることができず、その後、何度も延長されたことも、松枯れと松くい虫との間に因果関係がないことを裏付ける事情といえる。

このように、松枯れと松くい虫との間に因果関係があるかどうか明確でないにもかかわらず、静岡県は、ゴルフ場協会に対し、昭和五三年から、特殊林保護事業の目的の達成度や補助金の額の妥当性を検討することもなく、いわば慣習的に、同事業の四〇パーセント程度の補助金を交付し続けてきた。そして、その交付金額は、平成四年から平成九年までの間に、合計で二億二三〇〇万円にも及んでいる。これは、最近の地方財政の危機的状況、松くい虫防除に使用される農薬の有毒性、ゴルフ場の松林は本来各ゴルフ場が自ら管理すべきものであること等も考慮すると、「地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない。」とする地方財政法四条一項に違反するというべきである。

(被告らの主張)

地方財政法四条一項の「必要且つ最少の限度」にあたるか否かは、広く社会的、政策的ないし経済的見地から総合的に判断されるべきであるところ、確かに、昭和五六年当時に約一三万立方メートルにまで達していた静岡県における松くい虫による松枯れの被害量は、防除作業の実施もあって、平成八年には一万五〇〇〇立方メートルに減少した。しかしながら、全国の被害量はなお高い水準にあって、被害が再び激化する可能性もあるうえ、前述した松くい虫防除に関する立法経過等に照らすと、松くい虫防除の必要性は現在まで継続して認められているものである。さらに、本件補助金の交付は、毎年予算編成の作業の中で特殊林保護事業の必要性が検討され、静岡県議会の承認を得て行われてきたものであること、本件補助金は特殊林保護事業に要する経費の二分の一以内でなされるものであること、実際、本件において問題とされている補助金は経費の四〇パーセント程度にとどまっていること等の事情を総合すれば、本件補助金の交付は、社会的、政策的ないし経済的見地から総合的に判断して、目的を達成するために必要且つ最少限度を超えていないというべきである。

第三  争点に対する判断

一  証拠(乙六、七、九、一〇、一五、一六、証人藤田延久)と弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  わが国では、松枯れの原因としてマツノマダラカミキリ(松くい虫)が運ぶマツノザイセンチュウが考えられており、この考え方に基づき、昭和五二年、松くい虫等を早期に、かつ、徹底的に駆除し、さらにそのまん延を防止して森林の保全を図るべく、森林病害虫防除法(昭和二五年法律第五三号)が制定された。

当時の松枯れの被害量は全国で九九万立方メートルであり、その後、一旦減少したが、昭和四〇年代後半から被害が拡大し始めたため、昭和五二年、松くい虫防除特別措置法(昭和五二年法律第一八号)が制定され、その後、昭和五七年、昭和六二年及び平成四年に同法は改正・延長されて、松枯れ被害の終息に向けた各種対策が講じられてきた。その結果、昭和五四年度には全国で二四三万立方メートルにまで達した松枯れの被害量が、平成七年度にはその約四〇パーセントの一〇一立方メートルまで減少したとされている。

しかしながら、全国的には被害量がなお高い水準で推移していることや、気象要因等により被害が再び激化する可能性もあること等から、平成九年四月、森林病害虫等防除法が、松くい虫防除特別措置法の特別伐採駆除等の規定を取り込む形で改正・施行され、現在もなお、松くい虫等の駆除による森林の保全が図られている。また、林野庁長官は、松くい虫被害対策事業実施要領を制定し、同月一日付けで、これを都道府県知事に通知している。

2  静岡県では、森林病害虫等防除法に基づき、昭和四〇年から地上散布、昭和四九年から空中散布をそれぞれ行って森林の保全を図ってきたが、前記認定のとおり、昭和五二年に松くい虫防除特別措置法が施行されたこと等を受け、昭和五三年、右法律の対象外である森林、すなわち、本件要綱に定める特殊林(具体的にはゴルフ場の松林等)についても薬剤による防除を行って松くい虫を広域的に駆除するため、右特殊林の保護事業について補助金を交付することとし、昭和五五年以降は同事業を実施する民法三四条の定める社団法人であるゴルフ場協会に対して補助金を交付してきた(なお、昭和五三年及び五四年の補助金の交付の相手方は、本件全証拠によっても明らかではない。)。その結果、昭和五六年に約一三万立方メートルにまで達していた静岡県の松枯れの被害量は、平成九年にはその約八パーセントである一万立方メートルに減少したとされている。

しかしながら、静岡県では、前記認定の平成九年四月に森林病害虫等防除法が改正されたところと同様の理由に基づき、平成九年以降も、特殊林保護事業について補助金を交付している。

二1  以上の認定事実を前提として本件補助金の交付の違法性について検討する。

本件補助金は、ゴルフ場の松林等の保護を図るために交付されているものであるところ、その管理は、本来、各ゴルフ場が自らの責任で行うべきものであるから、本件補助金が各ゴルフ場の利益となっていることは否定できない。しかしながら、前記認定の松くい虫防除に対する一連のわが国の法令等の整備を中心とした諸施設に鑑みれば、松くい虫防除の必要性が全国規模において、しかも継続して認められてきたことが明らかであり、また、わが国においては、松林は、重要な森林資源であると同時に木材等林産物の供給をはじめ、防風、飛砂防止、土砂崩壊の防止等の国土の保全、形成等の上で大きな役割を果たしていることから、一般にその保護そのものに公益性があると認められてきたうえ、松くい虫の駆除は、広域的かつ徹底的になされることによって一層の効果が上がると考えられること(弁論の全趣旨)、ゴルフ場の松林の多くは森林計画の区分で生活環境保全機能及び水源涵養機能が高いとされている森林の周辺に位置し、それらの森林と同様の機能を果たし、自然景観や環境の保全に一定の役割を果たしていると考えられるほか、ゴルフ場は一部ではあるが県民の保健休養の場としても利用されているといえること(証人藤田延久、弁論の全趣旨)等の事情を総合すれば、ゴルフ場の松林等を保護するためになされる本件補助金の交付は、地方公共団体のなす財政的援助として、その支出の目的及び効果からみて、客観的に公益上必要であるものと認められ、法二三二条の二の「公益上必要がある場合」の要件をみたしているというべきである。

また、本件補助金の交付は、昭和五三年から行われているものであるが、前記認定のとおり、その間、継続的に松くい虫防除対策の必要性が認められているうえ、本件補助金は特殊林保護事業に要する経費の二分の一以内でなされるものにすぎないこと、右経費の必要性及び相当性についても、静岡県の職員等がゴルフ場協会から提出される事業計画書(甲二〇(平成九年度分))等を見て確認していること(証人藤田延久)、毎年予算編成の中で事業の必要性が検討され、県議会の承認を得て行われてきたこと(弁論の全趣旨)等の事情を総合すれば、本件補助金の交付は、地方財政法四条一項の「その目的を達成するための必要且つ最少限度」の要件をみたしているというべきである(なお、原告らは、静岡県は、昭和五三年から、特殊林保護事業の目的の達成度や補助金の額の妥当性等を検討することなく、慣習的に多額の補助金を交付してきたと主張するが、右主張は、前記認定事実に照らし、採用できない。)。

2  これに対し、原告らは、特殊林保護事業で行われるスミパインの散布は、地域住民及び地域環境に有害な影響をもたらすものであり、また、同事業の空中散布は国の定めた運用基準に違反しているところ、本件補助金の交付はこのような弊害を助長するものであるから違法であると主張する。

確かに、スミパインの散布が地域住民及び地域環境に有害な影響をもたらすといわれていること(甲七ないし一九、二七、三一ないし三三、三九、四一ないし四三、四五ないし四七、弁論の全趣旨)、森林病害虫等防除法七条の二第二項の規定する特別防除(森林病害虫等を駆除し、又はそのまん延を防止するため航空機を利用して行う薬剤による防除)の実施に関する運用基準(甲二三)では、空中散布はマツノマダラカミキリの成虫発生直前または発生初期及び発生最盛期直前の二回とするとされているところ、ゴルフ場協会が平成九年度に実施した特殊林保護事業では三回の空中散布が行われたこと(甲二一)は、原告らの指摘するとおりである。

しかしながら、特殊林保護事業においても、航空防除実施基準(乙三)が定められるなど、地域住民及び地域環境に対する影響を考慮して一定の配慮がなされており、また、特別防除の実施に関する運用基準を上回った空中散布を行ったからといって、直ちに本件補助金の交付が違法となるということもできない(なお、三回の空中散布が松くい虫防除対策に一層の効果をあげるとする見解も存するが(乙一七)、地域住民及び地域環境に対する影響を考慮すれば、空中散布の回数はより少ない方が望ましいともいえる。しかし、これについては、最終的には、空中散布による松くい虫防除の必要性の程度や地域住民及び地域環境に対する影響の程度等の事情を総合的に斜酌して総合判断されるべきものである。)。

また、原告らは、静岡県以外にゴルフ場の松枯れ対策に補助金を支出している都道府県は存在しないことをもって本件補助金の交付が違法であると主張し、証拠(甲三六)と弁論の全趣旨によれば、右事実が認められるが、補助金の交付は、各普通地方公共団体の判断に委ねられているものであるから(法二三二条の二)、右事情をもって本件補助金の交付が直ちに違法であるということはできない。

その他、原告らの主張に即して検討しても、本件補助金の交付が違法であると認めうる特段の事情は認められない。

三  以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官田中由子 裁判官今村和彦 裁判官村主隆行)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例